
表紙の装丁は、ヒマワリの花で飾られています。
「ヒマワリのぬくもり」という陽子さんの素敵な文章は、病気で療養中のよるべない陽子さんの気持ちとそれに寄り添う荒木さんの愛情に触れることができます。それは、陽子さんの遺稿になってしまいます。二人の生活をなぞる荒木さんの写真もその後に訪れる別れを知れば、胸がいっぱいになります。
陽子さんが亡くなった後は、嬲り書いたような日記のページが続き、荒木さんの心の時間はそのまま止まってしまう。それでも情け容赦なく現実の時は過ぎ、二人の生活の中で生かされていたものは命を失い、朽ち果て、腐っていく。
私は、この本をうっかり通勤電車の徒然に読み始めたのですが、なんと馬鹿なことだったのかと後悔しました。
豪徳寺のご自宅のバルコニー。陽子さんが生きていたこと、陽子さんと荒木さんの生活が確かにあった証のような場所を写した1枚の写真に釘付けになりました。
それは、見開き2ページの書籍用紙に少しざらついた調子で印刷されたモノクロ写真でした。何もないバルコニーから見上げる冬空に、おそらく陽子さんがそうしたんだろう、ピンと張り詰められた物干しのロープだけが、強い風に煽られてまるで弦のように震えていました。
それは、叫び出したいような喪失感と悲しさの風景で、それでいてほんとうに寂しい風景で、不覚にも朝の通勤客で混み合った電車の中、涙が溢れてどうしようもありませんでした。


竹中直人さん監督主演、中山美穂さんが主演された映画「東京日和」は、このエッセイ・写真集を原案として制作されたものです。
この物語のヨーコさんは、とても感受性が強くナイーブな女性として描かれています。彼女をごく普通の女性として支えようとする主人公とそうありたいと葛藤するヨーコさんの心の機微が、見る側にセンチメンタルな共感を呼び起こします。
スコアは、この映画のために大貫妙子さんが書き下ろされていて、エンドロールに流れる「ひまわり」という曲も、とても素敵です。